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東京高等裁判所 平成6年(ネ)3752号 判決

控訴人

池田時子

右訴訟代理人弁護士

須賀一晴

被控訴人

株式会社ミューズ

右代表者代表取締役

中村博

右訴訟代理人弁護士

林彰久

池袋恒明

今井和男

古賀政治

木村裕

髙城俊郎

鈴木仁

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件(当審において追加された金員支払請求に関する部分を含む。)を東京地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  主文第一項と同旨。

二  控訴人と被控訴人との間において、被控訴人が原判決別紙物件目録一及び二記載の各土地に対する控訴人の持分につき賃借権を有しないことを確認する。

三  被控訴人は、控訴人に対し、金一九五万五八八〇円及び平成七年五月一九日から右土地の明渡済みに至るまで、毎月金五万四三三〇円の割合による金員を支払え(当審における追加請求)。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  第三項につき仮執行の宣言。

第二  事案の概要

次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目裏五行目の次に次のように加える。

「二 当審における追加請求について

1  控訴人の主張

被控訴人は、右のとおり本件土地の五分の三の持分を有する篠田恵子、篠田猛、篠田秀夫らの承諾を得て本件土地を占有していると主張するが、仮にそうであるとしても、控訴人との関係では、右占有が違法な占有であることに変わりがない。したがって、控訴人は被控訴人に対し、本件土地の共有持分権に基づき、賃料相当損害金の支払を求める権利を有する。

ところで、オリックス株式会社は、近年本件土地の隣接の土地を坪単価六万円(一平方メートル当たり金一万八一八一円)で買い上げており、これが本件土地の時価と考えられる。そして、地代はおおむね土地の時価の1.5ないし二パーセントであるから、その中間をとり、1.75パーセントで計算すると、一平方メートル当たり金三一八円となる。

(算式) 18,181円×1.75%=318円

したがって、これに基づき控訴人の損害を計算すると、毎月金五万四三三〇円となる。

(算式) 10.25m2×318円×1/5×1/12=54,330円

よって、控訴人は被控訴人に対し、被控訴人が譲渡担保の実行通知をした平成四年六月一九日から平成七年五月一八日までの損害金一九五万五八八〇円及び同年五月一九日から本件土地明渡済みに至るまで毎月金五万四三三〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

2  被控訴人の反論

右請求の追加は、新たな争点を持ち込むものであって請求の基礎に変更があるというべきであり、かつ、これに判断するとすれば著しく訴訟手続を遅延させることになるから、許されない。

すなわち、本件土地の公簿面積は、合計七七〇八平方メートルであるところ、株式会社真理谷と篠田猛、座間洋子、篠田秀夫及び篠田恵子との各本件土地賃貸借契約書末尾の賃貸物件の表示欄によれば、本件土地の実際の面積は、一万〇二五一平方メートルとされており、どちらが正しく面積を反映したものであるのかが確定されない限り、本件土地の賃料相当損害金を算出できないからである。」

二  同六行目の「二」を「三」に改め、同八行目の次に次のように加える。

「3 追加請求の許否

4 本件土地の控訴人の持分についての賃料相当損害金の額」

第三  当裁判所の判断

一  本件確認請求は、本件土地につき五分の一の共有持分権を有する控訴人が、従前控訴人を含む共有者全員(各持分五分の一)が本件土地につき株式会社真理谷のために設定した賃借権の譲渡を受けて本件土地を占有し、かつ、共有者のうち、篠田恵子及び篠田猛からは譲渡の承諾を受け、同篠田秀夫との間では、その持分につき新たに賃貸借契約を締結した被控訴人に対し、控訴人の持分について被控訴人が賃借権を有しないことの確認を求めるものである。

これに対し、原審は、被控訴人が本件土地の五分の一の持分権を有する共有者三名との間の賃貸借契約に基づき本件土地を占有している者であることから、控訴人は、被控訴人に対し、当然には本件土地の明渡しの請求をすることができないものであるところ、控訴人と被控訴人との間で、控訴人の持分につき被控訴人が賃借権を有しないことを確認しても、共有者の一部から土地を賃借して占有している被控訴人の占有権原に消長を来すものではなく、したがって、右の確認を求めることは、当事者間の紛争の解決に資するものとはいえないことを理由として、本件確認請求に係る訴えを却下した。

二  しかしながら、原審の右判断は、次のとおりこれを是認することができない。

確かに、「共有者の一部の者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者は、その者の占有使用を承認しなかった共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有がこれを承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用する権原を有するので、第三者の占有使用を承認しなかった共有者は右第三者に対して当然には共有物の明渡しを請求することはできないものと解するのが相当である」(最高裁昭和六三年五月二〇日第二小法廷判決・判例タイムズ六六八号一二八頁)。そうであるとすれば、本件賃借権の不存在を確認してみても、控訴人が被控訴人に対し、本件土地明渡請求権が発生するいわれはないから、控訴人にとって共有持分権に基づき本件土地の明渡しを請求する前提問題としては、本件賃借権の不存在を確認する利益はない。

しかし、共有者はその持分に応じて共有物を占有使用することができるから(民法二四九条)、共有物のそのような占有使用を妨げられている共有者は、他の共有者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者に対し、自己の持分の限度において共有物を占有使用することを妨害してはならないという不作為請求権を抽象的には有するものであり、具体的な占有使用の方法につき共有者の協議がまとまらないときには、共有物の分割を請求する方法が存するのである。そして、共有物の占有使用を妨げられている共有者は、他の共有者から共有者の協議に基づかないで共有物を占有使用することを承認された第三者に対し、右の不作為請求が可能であり、その具体的実現に困難を伴うことがあるとしても、少なくとも自己の持分権が侵害されていることを理由に、損害賠償ないし不当利得の請求を行うことができることは明らかである。

そうすると、控訴人と被控訴人との間で、控訴人の持分につき被控訴人が賃借権を有しないことが確認されれば、これによって、控訴人が被控訴人に対し当然には本件土地の明渡請求をすることはできないものの、被控訴人は、控訴人に対し、本件土地を排他的に占有する権原を主張できず、控訴人の本件土地の持分権を侵害していることが確定し、この確定は、控訴人と被控訴人との間の紛争の解決に資するから、控訴人は、本件確認請求につき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。

三  以上のとおりであって、原審が本件確認請求につき確認の利益を欠くものとして控訴人の本件請求を棄却したのは違法であり(なお、原判決は、本件確認請求は確認の利益を欠くとしているから、右主文の表現にかかわらず、本件確認請求に係る訴え却下の訴訟判決と解される。)、原判決は取消しを免れない。

第四  結論

よって、原判決を取り消し、民訴法三八八条により本件(当審において追加された金員支払請求に関する部分を含む。)を原審に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 小磯武男 裁判官 伊藤茂夫)

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